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~フリーコラム~山田の不振を生んだのは周囲の「期待」から生まれたものか?

 山田哲人が苦しんでいる。
 これまでのNPBの歴史の中で、わずか8人しか達成していないトリプルスリーを2015年に達成。チームを14年ぶりのリーグ優勝に導き、MVPを獲得。しかしそれだけにとどまらず、翌2016年には前人未到の2年連続トリプルスリーという快挙を成し遂げた。
 伝説の始まり。
常に予想を上回る結果を残した山田は、これからも良い意味で期待を裏切り続け、どこまで上り続けていくのかと想像するだけで楽しみになる存在になった。
  しかし今季、その成績は上がらない。 トリプルスリーどころか、そのうち一つでも達成するのが、難しい状況。
 落ち込む成績を鼓舞するつもりだったのかもしれない、「交流戦へ入ればすごいのが来る」と言っていたが、リーグ戦以上の落ち込みが待っていた。
 現在の成績は、打率.213、8本塁打、29打点、9盗塁。昨年までの山田哲人を思い出せないほどの落ち込みようだ。
 
 私は以前、山田は「嘘をつく」と書いたことがある。
 ヒーローインタビューに立てば、打てた場面を喜び、チームの勝利への貢献に安堵し、そしてファンへの感謝を述べ、最後は次の試合に向けての抱負を語る。そこには奇をてらった言葉や受けを狙ったものはない。無難なコメントに終始する。
 またメディアに載る話も、目新しいものはない。打ったのは反応、狙い球ではなかったが、上手く打てた、といったような中身を感じないものが多い。
 スコアラーのところへ行くことも少ないと言われ、試合前に対戦相手の映像を見ることはない。「打席での感じ方の方が大事」と言い切る。そんな言葉の数々が、感性で打つ打者というイメージを与えているのだろう。
 しかし感性だけで打席へ立っている打者が、2年連続トリプルスリーを達成できるだろうか?私はそう思わない。
 山田は非常にクレーバーな選手であり、メディアに対し語る言葉は感性で打っていることを強く印象付けるもの、スコアラーのところへ行かないのは、自分なりに相手投手への対峙の仕方があり、そこに迷いを生まないための自己防衛であると勝手に思っている。
 ただそんな山田が、弱音をこぼすようになってきた。それだけ追い詰められているという証なのかもしれない。

 私はプロ野球経験者ではないから技術的なことはわからない。ただ山田を見続けている中で、今季の打撃フォームには違和感を覚えていた。
 それは右膝の使い方だ。
 山田は左脚を大きく上げ、タイミングを取る打者なのは、野球ファンであればだれもが知っていること。テレビ中継で語られている不調の原因に、この脚の上げるタイミングが遅く、差し込まれているというものが多く聞かれるが、私に違和感を伝えてきたのは、軸足の右、部位でいえば膝だ。

 長距離打者の打ち方の例えにはいろいろある
 プロ野球OBの評論家が打者の前の肩の壁の話をよくするが、それは体の開きの話。
 山田の場合軸の右足の方に壁があるかのように真っすぐに立ち、そこで溜められた力が着地する左脚、バットの乗り移って打球を飛ばしていく。まるで弓矢が放たれたような美しさがある。
 しかし今季の山田は、右膝頭が一塁ベンチ方向ではなく、捕手側に向いていく。

 一流打者と言われる選手の中にも足を上げる選手は数多くいる。
代表的な選手は古くは”一本足打法“の王貞治氏、”振り子打法“と言われたイチローが挙げられる。特にイチローは王貞治氏のようにまっすぐ脚を上げるのではなく、捕手側に振るため、一見今季の山田哲人と同様に、軸足の膝が捕手側に向きそうだがそうはなっていない。
 この二人は左打者、右打者であれば現役の選手で見ると、ジャイアンツの坂本が山田哲に近い形と言ってもいいだろう。
 しかしやはり、軸足の膝は投手方向へ向くことはあっても、捕手方向になることはない。
 他にも過去の超一流と言われた打者のフォームを見たが、三冠王落合博満氏、天才と評されたカープ前田智徳氏、メジャーで通 用したスラッガー松井秀喜氏は晩年にややその傾向が見られるだけで、安定した成績を残した選手に、今の山田と同様の形になる選手は少なかった。

 そんな検索をする中で、唯一軸足が捕手方向へ向く打者がいた。それはファイターズの大谷、もう一人は常にそうなっているわけではないが、山田の同僚である雄平がそうだ。
 ただこの二人には山田哲人との決定的な違いがある。
 それは左右の打席の違いだけでなく、打撃の型だ。
 大谷、雄平は左打者でありながら、逆方向へ長打を打てる特徴を持つ。軸足の膝を捕手側に向けることで、体の開きを抑え、素直にそのまま強く振ることから、そのような特徴が出るのだろう。
 しかし山田は、プルヒッター。逆方向へ行くのはたまたまで、本来のスタイルはレフト方向への強い打球だ。
 それが逆方向へ強く打つ打者と同じような始動をしているのだからうまく行かない。上半身は左へ、下半身は右と真逆な方向へ向いている。これだけ力が分散するのだから、力強い打球を求めるのは無理だ。
 今季山田哲人の本塁打が右方向に行く傾向が見られるのは、本人の意思とは逆に偶然不利遅れ気味になったことで、理想的なフォームが生まれ、いい打球を生んでいるのかもしれない。
 打撃フォームの技術に関しては、素人がどうこう言えるものではないが、日常の生活においても、下半身の小さな動きが上半身へ伝わることで大きな変化になることは経験したことがあるはずだ。
 今の山田は、自分の思い通りに体が動かない形、一言でいえば不自然だということになる。

 技術論はこの辺りにして、ではなぜ山田哲人の打撃がこのような狂いを生じたのだろうか?
各評論家が語るように、昨年受けた死球の影響、WBC出場に出場したことで、調整の狂い、対応しようとしたことが、この形を生み出したこともあるだろう。一昨年捻挫した右足首に緩みがあり、それが安定感を失くさせ、膝の動きに繋がっているのかもしれない。
 しかし私にはもう一つの理由が浮かんでいる。それは、前人未到の2年連続トリプルスリーを達成した山田哲人だからこそのもの、40×40への意識だ。

 指導にずっと当たっていた杉村コーチは、「本当の意味では中距離打者」と山田哲人を評している。その言葉通り、トリプルスリーを達成した当時、最も厳しかったのは、本塁打をクリアすることだと山田哲人は語っている。

 昨年38本塁打を記録した山田。
 死球による欠場、コンディション不良があったことを考えれば、あと2本はそれほど難しいものではないように思える。昨年の出場試合数は133。もし順調に出場していればあと10試合チャンスはあり、打つ可能性はあったが、仮定の話でしかない。
 昨年までの山田であれば、ヒットが5試合でないことは考えにくいが、本塁打となれば別の話で、二週間ぐらい遠ざかることは何度かあった。
 投手なら二桁、野手なら3割、30本といった区切りの数字には壁があるという。山田とて例外ではないだろう。
 まして山田は、「本塁打をクリアするのが最も難しい」と言っているのだから、届かなくても不思議はなかったのだ。

 ただ40×40をクリアするには、この難しいまだ届いたことのない40本塁打を打たなければならない。
 またもう一つの40盗塁をクリアするためにも、この記録を狙うには先に到達しておきたい本数なのだ。
 山田は2年連続盗塁王も獲っている選手だが、15年が34、16年30とどちらも40には届いていない。3塁への盗塁がないことから、数字が伸びていかないというものもあるのだろうが、「状況を見て必要のないところでは走らない」と真中監督が言うように、セーブしていることがあるのだと思われる。
 言葉にはしないが、40盗塁というものに関しては自信があると推察する。
 この40×40という記録、長打と盗塁という相反するものを両方伸ばしていかなければならないところに難しさがある。
 40本塁打を打つような選手は、当然長打が多くなる。
 3塁盗塁のない、山田の盗塁企画をする条件は、1塁走者になり、2塁ベースが空いているというものだ。そうなると本塁打どころか、14年、15年連続リーグトップの2ベースさえ、記録達成には邪魔なヒットとなる。
 だからこそ40本塁打へ先に到達している必要がある。
 それだけ本塁打を打てば、四死球は増える。
 ストライクが来ても本塁打に出来るコースへはなかなか投げては来ない。
 そうなったときに、ミートしてヒットを稼げば、1塁走者となる確率は高まる。
 山田は本塁打に関しては難しいというが、3割に対してはマイナスの言葉を口にしていない。ヒットを打つにはコツがある、と言われるが、おそらく山田の中でそのことが確立されているのだろう。つまり少なくとも昨年まではヒット、出塁においてはある程度計算が立っているということになる。

 その40本塁打を目指すためのフォームが、今季のものだと私は思っている。
 狙いを定めてその形になったのか、無意識に「飛ばしたい」という気持ちがフォームに出たのかはわからない。
昨年までの山田は、フリー打撃でスタンドインをあまりしない珍しい本塁打王と言われたが、今季は練習での打球が飛んでいるという。
 打撃投手の緩い球であれば、多少タイミングがずれても、勢いから生まれたスイングで遠くへ運ぶことが出来るのだろう。
しかし生きた球は違う。
 体をひねれば勢いがつく。勢いが付けば、自然とスタンスは広くなる。
 脚を上げて着地しても、スタンスが狭かった山田だが、それが広くなれば当然視線は変わる。
 山田と言えばインコースの強さが有名だが、もう一つの特徴はハイボールヒッターであるということ。自分自身スイング軌道は変えているつもりはなくても、視線がずれればボールの見え方、バットの通る道は違ってくる。それが高目の球の打ちミスとなり、ファール、凡打に繋がっているように思える。
 今季右への本塁打を打った試合、例えば4-8から最終回に追いついた火付け役となった一発は、「ランナーが3塁にいたので還すための打撃」をしたことから生まれたという。
 その時のフォームは右膝が捕手方向へ行ってない。ただ追い詰められた心境で行ったことは、これまで蓄積されたものが瞬間的に出たもので、意識していない分、体に染み付いていかない。
「良くてもすぐに忘れてしまう」
 山田の言葉がそれを表している。
 このコメントを素直に受け入れるなら、40×40への意識は、周りから植え付けられたもので、そこを目指したフォーム改造ではなかったのかもしれない。

 超一流の選手ほど繊細であるという。
 山田も例に漏れず、そうであると思われる。
 そんな選手だけに、チームが、ファンが、自分に何を求めているかは十分にわかっているだろう。それも2年連続トリプルスリーを達成した山田にかかる期待は、普通のものではなかったはずだ。
 それはファンだけのものではない。
 プロ野球界全体から山田に覆いかぶさるものだった。
 その期待の重さに、超一流の中へ入った山田は気づいた。
 ガムシャラにやってきた間は見えなかったものが、目に入り、耳に届くようになった。
 そんな状態で、結果が出なければ、普通の精神状態でなくなり、求められているものしか見えなくなっている当然のこと。それがフォームのズレを元に戻せない要因なのだろう。
 杉村コーチの「精神的なもの」というのは、あながち間違ってはいないように思える。

 良かった時の山田は、無難な発言をすることで自分の打撃内容をぼかしてきた。
 それはある意味プロとして、自分を守る手段だともいえる。
 しかしやはりプロ野球選手は成績なのだ。成績が落ちれば、弱音も出てくる。自分を守ることすら出来ないほど追い込まれ、嘘をつけなくなった。
 
 今季はこのまま低迷する可能性は高い。
 それを見て短気な人たちは、「山田は終わった」というかもしれない。だがきっと山田は裏切ってくれるはずだ。
 これまで何度も良い意味で期待を裏切ってくれたのが山田。
 逆境を乗り越え、今度は「終わった」という期待を裏切ってくれるはずだ。

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